ケロイド・肥厚性瘢痕
きずが治っていくために、人の体内では傷の周囲に毛細血管を新生(新たに作り出す)させたり、コラーゲン繊維の産生が積極的に行われていきます。通常の場合、時間とともにこれらの反応は徐々に落ち着いていき、白いきずあと(成熟瘢痕)になります。しかし、この間に線維成分や血管成分が過剰に増えてしまうと、ケロイドや肥厚性瘢痕と呼ばれる状態になってしまいます。見た目の問題だけでなく、皮膚がひきつれや、関節が思うよう伸ばせない原因になるときがあります。
肥厚性瘢痕とは
肥厚性瘢痕とは、通常よりも長い間、キズが赤くミミズ腫れのように盛り上がってしまいます。あまりキズの範囲を超えて広がっていくことはありません。痛みやかゆみの症状を伴う場合があります。
ケロイドとは
ケロイドでは、症状が強く、キズの範囲を超えて正常の皮膚まで赤い盛り上がりが拡大してしまいます。痛みやかゆみも肥厚性瘢痕より強い場合が多いです。
ケロイド・肥厚性瘢痕になりやすい場所
できやすい部位は、耳・前胸部・下腹部・肩・膝などが知られています。
耳はピアスの傷がきっかけで発症することが多いです。
前胸部ではニキビや胸部手術がきっかけで発症することが多いです。
下腹部は腹部の手術や帝王切開後の縫合部から起こることが多いです。
肩、膝のように動きや緊張のかかる部位の傷はケロイドになりやすいと言われています。
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療
圧迫療法
テープやスポンジ、サポーター、シリコンゲルシートなどによる圧迫をおこなうことで病変部の固定と安静を保ちます。
内服薬
トラニラスト(リザベン®)という抗アレルギー薬があります。皮膚線維細胞の増殖を抑える効果があり、痛みや、かゆみの改善・予防効果があります。しかし、比較的長期間の内服が必要で、多くはありませんが膀胱炎症状や肝障害、腎障害などの副作用が出現する場合もあるので、使用する場合は定期的な採血検査も必要です。
ステロイドテープ
ステロイドテープは病変部に1日1回12時間から24時間貼ることで炎症を抑えます。当院ではエクラープラスター®を主に処方いたします。傷跡の大きさに小さめに切って貼ります。外れやすい場合は医療用テープで補強する場合もあります。テープかぶれなどを伴いやすい場合はステロイド軟膏を使用することもあります。ケロイド・肥厚性瘢痕の盛り上がり、硬さを徐々に改善していきます。
ステロイド注射
ステロイドを直接病変部に注射します。注射自体は少し痛みを伴いますが効果は比較的強いです。当院では1ヶ月に1度の注射で症状を見ながら何度か行う方針としています。ケロイド・肥厚性瘢痕の盛り上がり、硬さを徐々に改善していきます。効果の出方は早い方で数ヶ月、症状が強い場合は1年以上注射を行い場合もあります。
手術治療
ケロイド・肥厚性瘢痕は傷からできるものなので基本的には保存的治療を第1に考えます。しかし時間がかかりますので、手術を検討する場合もあります。
耳垂(耳たぶ)のケロイドは比較的再発率が低いので手術の適応になりやすいです。当院では耳介ケロイドの切除後に1ヶ月に1度のステロイド注射を半年から1年程度継続することをお勧めしています。耳以外の部位では、ケロイド切除後に放射線治療を行う方法もありますが、当院では放射線治療は行えませんので、必要時やご興味がおありの場合は基幹病院に紹介させていただきます。
傷跡ボトックス注射(自費療法)
傷跡の周辺にボトックスを注射する方法が近年報告されています。正確な作用機序は不明ですが、1つの機序としてボトックスにより傷にかかる緊張を緩めることが関係すると考えられいます。また、筋線維芽細胞の活動を低下させることも影響しているとも考えられています。自費診療になります。
ノ―リスによる傷の赤み治療(自費診療)
ステロイドの治療で、ケロイド・肥厚性瘢痕の盛り上がりや硬さは改善することは可能ですが、傷跡の赤みはステロイドでは改善が難しいです。ノーリスはIPL(intense pulsed light)という光を照射する光治療機です。血管病変への治療では、IPL光により病変部の血管内壁から熱凝固を起こし血管自体を閉塞させます。傷跡やケロイド後の赤みにも有効と考えます。自費診療になります。